【多様な"生き方"を学生に伝えて、彼らの将来の可能性を広げてほしい】一般財団法人あしなが育英会様インタビュー
Salesforceの導入および教育を事業とする株式会社Prazto。2023年より、一般財団法人あしなが育英会様(以下、あしなが育英会)の学生向けにSalesforceの導入事業のインターンシップを提供しています。
あしなが育英会とは、病気や災害、自死などで親を亡くした子どもたちや、障がいなどで親が十分に働けない家庭の子どもたちを、奨学金、教育支援、心のケアで支える民間非営利団体です。今回、あしなが育英会の角田諭史様に、困難な状況にいる子どもたちが抱えるIT教育の課題、そしてPraztoができることとは何か、詳しくお聞きしました。
国内外の遺児を支援して、社会に貢献できる人材を育成する、あしなが育英会
芳賀:まずは改めて、あしなが育英会さんの活動の目的を教えていただけますか?
角田:大きなミッションは、「国内外の遺児を支援して、社会に貢献できる人材を育成していく」ということです。奨学金を代表とする金銭的な支援にフォーカスしていただくことが多いのですが、それ以外にも「将来どう生きていくか」「どう社会に貢献していくか」を考えられるリーダー人材を育成する様々なプログラムを運営しています。
例えば夏休みには「つどい」といった、高校生・大学生に向けた「不確実性の世の中でどう生きるか」をテーマにしたキャンプも行っています。著名な方に講演をいただいたり、学生同士でディスカッションの場を設けたり、大学生から高校生に「いまどんな勉強をしているのか」「将来どんな職業を目指しているのか」という体験を話してもらったり。様々な情報に触れ、知らない世界を知ってもらい、彼らの可能性や未来の選択の幅を広げる活動をしています。
芳賀:家庭ではできない体験や出会いを提供して視野を広げる活動をされているのですね。
角田:まさにその通りです。生活が苦しいご家庭では、習い事ができなかったり、友達と遊びに行くのも遠慮してしまったりと体験の格差も生まれてきてしまいます。だからこそ、我々から様々な機会を提供し、情報を発信していくことが大切だと思っています。
金銭面・情報面の課題が、将来の職業選択の幅にも関わる
大竹:では、あしなが育英会の学生の方のIT教育の現状についても教えてください。どのような課題があるのでしょうか?
角田:金銭面の課題と情報面の二つの課題があると感じます。
金銭面の課題というのは、ご家庭の中でIT教育に費やす金銭的余裕が無いということ。2023年度にあしなが育英会の奨学金へ申し込んでくださった高校生のご家庭の平均所得は135万円程度でした。これは平均所得と比較しても30%ぐらいの水準です。そういった状況ですと、デジタルデバイスの購入をためらったり、大学の授業で必要なパソコンを購入する際に無理する必要があったりします。さらに自宅にインターネット回線やWi-Fiが開通していないご家庭もいます。その時点でハンデがあるのです。
情報面の課題というのは、子どもたちにITの重要性や便利さといった情報が届いていないという点です。
支援させていただいているご家庭の約5~6割が非正規雇用の働き方をされているので、一般の会社員のように、ITを使う機会自体が不足しています。親世代がITに触れていないということは、子どもたちもその情報にアクセスしにくいということです。
芳賀:それらの課題は、将来の職業選択の幅の格差にも繋がってくるのでしょうか?
角田:繋がると感じています。例えば、我々が夏休みに開催している「つどい」という高校生向けのキャンプで、「将来の夢」について聞くと、IT関連の職業はまず挙がってこない。教師、看護師、児童福祉師など、身近な大人の職業に目が向く子どもが多い印象です。
もちろんこれらは誰だって憧れる職業ではあるのですが、学生たちは特に周りの大人がしている職業しか知らない、情報が足りていないと感じますね。
芳賀:なるほど。ITの世界にフォーカスすると、子どもの頃の境遇が将来エンジニアになる・ならないの差にも繋がりそうです。
角田:IT分野に関しては、子どもたちの環境が将来に与える影響が二分化されていると感じます。
あらゆる情報に触れられず、外にも出ていけない環境で、ITにも触れ合えないという子どもと、逆に外に出ない分、自分でできることとして常にパソコンを使っているため、プログラミングがかなり得意という子どももいますね。
高校から大学への進学はハードルが高い
芳賀:弊社のインターンシップでは現在は大学生を対象にしていますが、そもそも学生の大学進学率はどのような状況なのでしょうか?
角田:やはり高校から大学へ進学するハードルは高いです。例えば、センター試験が終わり、大学に合格したのに入学一時金を収められなくて進学を諦める子や、弟妹に進学させたいから高校卒業後に就職の道を選ぶ子もいます。
実は、大学生になると、あしなが育英会以外にもあらゆる奨学金を使うことができます。国が母体となっているものや、大学の生活困窮者支援制度などです。あとは成績優秀者に対する授業料減免措置もですね。なので、大学に入学してしまえば意外となんとかなる部分もあります。
しかし、高校生はそううまくはいかない。実は、2023年度にあしなが育英会で支援できた高校生は、申請者のうち半分程度。例えば年収300万円以下でも我々の奨学金の対象者からもれてしまったのが実情です。高校の授業料無償化も始まりましたが、大学の入学一時金などのまとまったお金はなかなか用意しづらいご家庭が多いと感じます。
芳賀:大学へ進学するかしないかで、その後の人生の幸福度は変わるものなのでしょうか?
角田:まだOBOGへの調査を進めている段階なので、正確なデータはありません。それに高校卒業後の進路だけで「どちらが良いか」といった単純な比較はできないと思います。しかし、大学へ進学することで、人生の猶予期間のようなものが生まれ、人間関係も広がりますし、経験値も増えます。実際にあしなが育英会の奨学金を使い大学へ進学した子たちからは「高校卒業してすぐに働かなくてよかった」という声も多く聞こえてきます。
芳賀:すごくよくわかります。大学生活は、いわゆるモラトリアム期間とも言われますよね。私もその時の経験が今にもつながっていると感じます。
角田:我々も高校生向けに情報提供や大学生との触れ合いの機会を増やして、彼らの可能性を広げるサポートには力を入れています。ただ、高校生だと学校や部活が忙しく、アプローチできる機会が頻繁にはないのも実情なんですよね。
芳賀:大学生ならばアルバイトをしたり、サークルに所属したり、ボランティア活動をしたりと時間的にも行動範囲的にも自由が利きますが、高校生はそうはいかないですものね。
角田:そうなんですよね。なので、日ごろからLINEを使った情報提供もしています。例えば先日は企業様からもコンサートに無料招待いただいたり、物品を提供いただいたりしたので、そういった情報や、他団体の奨学金制度の情報などもLINEで流しています。学生からも気軽に連絡できるような接点を作るようにしていますね。
親の世代にその認識がないと、職業の選択肢に入りづらくなってしまう
芳賀:一方、ITエンジニアリングの世界では「学歴」という意味で、大学に進学したかどうかはあまり関係ないのかとも思っています。私自身、Praztoを立ち上げてから今までで、学歴を聞かれたことがありません。実力がすべてかなと感じます。なので、経済的な理由で高校卒業後に就職しなければならなかった方にこそ、ITエンジニアリングを教えたいとは思っています。
角田:そうですね。私も働いてて学歴を聞かれることなんてありません。ITエンジニアもですが、わりと多くの大人は、結局実力が全てであると思っているのではないでしょうか。だからこそ、高校生の早い段階で職業の選択肢を知っていると、彼らの人生の満足度が変わると感じています。
しかし、親を亡くしたり、親が障がいを持っていたりするご家庭では「安定した職業」「苦労しない職業」を周りも勧めがちです。公務員や医療従事者などの、ある程度お給料がもらえて、職場を変えても働ける「手に職系」を理想とし、周りが勧めるから子どもも従うというパターンが多いのです。
そう考えるとITエンジニアも「手に職系」の職種ですよね。ですが、親御さん世代にその認識がないと、子どもの職業の選択肢に入りづらくなってしまうのかなと思います。
芳賀:なるほど。高校生に選択肢の一つとして、ITエンジニアを認知してもらいたいですね。
角田:最近は小学校でもプログラミングの授業があるくらいなので、「そういった職業がある」と知っている子どもたちが増えているかと思います。でも実際にどういう働き方をしているのかまでは知らないですよね。
Praztoのインターンシップで、プロの方がどう働いているかを知ってほしい
芳賀:情報に触れられなかったために、ITエンジニアという職業を知らないまま大人になってしまうことがとても悔しいと思っています。そういった情報格差を解決するためには、我々はどういった支援をすべきなのでしょうか?
角田:IT業界の中にはどういった職種があり、何ができて、どう社会に還元されているのかを、大人たちの方から積極的に発信する必要があると感じています。
実際、IT技術は年々上がり、今後デバイスはもっと安価で手に入りやすくなると思いますし、プログラミングができるスマホアプリもありますよね。金銭的格差はだんだん解消されていくかとは思います。圧倒的な情報不足の部分は、今解消すべき課題だと感じます。
芳賀:今、我々が行っているインターンシップは課題に対する解決策として有効なのでしょうか?
角田:そうですね。プロの方がどう働いているかを身近で知ることができるのは、とても貴重な経験だと感じます。プロのエンジニアと一緒に過ごし、一日をどう過ごしているか、何を作り、それがどう社会にインパクトを与えているかをかを知る機会は非常に大切。やはり片親や親が働けていないという状況では、「働くこと」の解像度も下がっていくと思うので。
しかも、一般的に学生にとってインターンシップは難易度が高いイメージ。エントリーシートを提出し、面接を受け、何社もインターンシップを落ちることもあります。でも御社は未経験の彼らにインターンシップの機会を与えてくださる。これはとてもありがたいです。
実際に学生同士の会話で「この前、Salesforceでこういったものを作ったんだよ」「すごい! いいな!」と盛り上がっている様子も目にします。御社でのインターンシップが彼らにとっていい刺激になっていると実感しますね。
多様な「生き方」を学生に伝えてほしい
芳賀:それは嬉しいです。より一層彼らにとって有益な支援をするために、弊社はどんなことができるのでしょうか?
角田:多様な生き方や働き方を教えていただく機会があるといいのかなと感じます。例えば、フリーランスの生き方を座談会や講演会、ワークショップなどでお話いただけると、学生も「そういう生き方もあるんだ」と知ることができるので。
芳賀:なるほど。私も、働き方の多様性は積極的に教えていきたいとは思っています。キャリアは縦に登っていくものだけでなく、もっと自由なものだと考えているので。私もエンジニアの頃に創業して現在はこのように代表をしていますし、大竹はいま沖縄に住みながら働いています。キャンプの会社を経営しながら、Salesforceのコンサルタントとして弊社を手伝ってくれている業務委託のメンバーもいます。弊社のメンバーも様々な働き方をしているので、「生き方」をテーマにした講演会はしてみたいですね。
角田:すごくいいと思います! 学生たちにとっても本当に人生が変わるような出会いになるかもしれないです。
芳賀:今、弊社のインターンシップに参加してくださっている学生はとても立派で積極的な方ばかりです。でも、支援が必要な学生の中には、積極的に行動できない方もいるのではないかとも思っています。
角田:たしかに今インターシップに参加している彼らは、学生たちの中でもかなりチャレンジ精神が高い子たちだと思います。反面、おっしゃる通り新しいことに一歩踏み出す勇気がない方がいるのも事実です。むしろ、消極的なタイプが圧倒的に多いとも感じます。
芳賀:そういう消極的な方にこそPraztoのインターンシップを知ってほしいという思いもあります。どのように情報を届けると良いのでしょうか?
角田:その点は我々も課題だとは思っています。多くの企業・団体様から様々な機会を提供いただくのですが、学生側が参加を渋ってしまうこともあります。やはり情報をこちらから投げてるだけだと難しいんですよね。
なので、少人数で集まった時に、一人一人に対してアプローチをかけるようにしています。一対一で話すと意外と「じゃあやってみたいと思います」と言ってもらえることもあるので。
御社の場合は、インターンシップ生たちを中心に情報を発信してもらうのも一つの手段かと思います。堅苦しくないカジュアルな食事会を学生同士で開催して会話をするなど。
芳賀:すごく良いですね。
大竹:私も芳賀と同意見で、インターンシップに応募してきていない「見えない子」こそ、自分の力だけで選択肢を広げることが難しいのではないかと思っています。角田さんのご提案のように、いきなりインターンシップの会社と話すのではなく、まずは学生と話す機会を作ることはしたいですね。同年代が発信してる情報には興味を持ってもらいやすいのではないかと感じます。
芳賀:今後我々は、スキルだけを教えるだけでなく、ITエンジニアの働き方の部分ももっと伝えていく必要があるなと感じました。講演や学生同士の食事会なども積極的に行っていきたいです。
角田:ぜひ、ご提案いただけたらありがたいです。
(構成/菱山恵巳子)